以前の石狩川の洪水は、堤防が完全につながっていないため、そこから溢れる洪水で、本川自体が氾濫する外水氾濫が主だった。石狩川の治水対策は、捷水路事業(ショートカット)が推進され、切れ間のない堤防の連続化等が求められた。
これに対し昭和56年洪水は、水位の増した石狩川に流れ込めない支川や排水路などの水が農地などに溢れる、内水氾濫が各地で発生したのが特徴だ。
この洪水を契機に、石狩川の治水の指針を示す「石狩川水系工事実施基本計画」が大改正された。昭和56年8月上旬の洪水を安全に流すことを目標に、石狩大橋(道道139号江別奈井江線)地点の基本高水のピーク流量を18,000m3/sに設定。増加分は、本支川に計画された治水施設等で調節することに。排水機場を整備して内水氾濫にも対応する。また下旬洪水で土砂災害が発生した豊平川上流は、砂防ダムや床固工群、遊砂地等の砂防事業が着工された。
こうして石狩川本支川のビックプロジェクトがつぎつぎに事業化し、新たな時代の多彩な石狩川治水が幕を開けた。
また、道内初の大規模な水防演習が昭和59年7月、江別市の石狩川河川敷で行われるなど、被害を最小限にとどめるための人的な活動も重要視されていく。現在は石狩川の水防公開演習として、自衛隊に警察、消防など関係機関と地域が協力し、住民参加の体験型メニューも加えて毎年開催されている。なお、平成23年は東日本大震災への対応のため中止となった。
洪水被害を予測し、浸水範囲と避難場所等を地図化した洪水ハザードマップも市町村単位で作成、公開されている。
さらに災害時は水防活動の拠点で、普段は地域交流の場としても活用できる、河川防災ステーションが要所に建設されている。
ハードとソフトを連動させ進めてきた石狩川の治水は、昭和56年洪水にも対応しうるところまできている。予報段階では「昭和56年と同規模」といわれた今年9月上旬の出水でも、市街地や農地などの浸水被害が軽減され、治水事業の成果が実証された結果になった。
石狩川流域内のダムによる洪水調節、石狩川下流では洪水を安全に流下させるために行った、川の断面を拡げる浚渫(しゅんせつ)で、石狩大橋付近の水位を約1m低減。下流域の29箇所の排水機場がフル稼働して、約1,500万m3(札幌ドーム約9.5個分)の内水を排除し、試算によると約1,600haの浸水被害を軽減した。さらに、石狩放水路の10年ぶりの通水で茨戸川の水位を1m程低減し、工事中の千歳川遊水地群のうち、嶮淵右岸地区遊水地に緊急通水し、約115haの浸水被害を防いだ。
※資料:札幌開発建設部の公式ホームページに公開された資料より
しかしながら石狩川の治水事業はまだ途上で、流域には水害に苦しむ住民がいる。また異常気象による洪水の頻発や都市型水害という、新たな脅威も加わった。今後、昭和56年を超える水害が起こる可能性は否定できない。
だからこそ昭和56年洪水の事を忘れず、時に振り返り伝えていく事も、安全安心な暮らしの実現に必要ではないだろうか。